★夢幻泡影★ (むげんほうよう)

~尽きてゆく魂の詩~

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「髪を洗う」

スポット・ライトの光を全身に浴びて、
一糸まとわぬ全裸の姿で、大衆の注目
を一身に集める。

ストリップ・ショーの関係者以外で、
そんな経験をしたことのある人が。
いるだろうか?

わたしには一度だけ、あるのだ。

074.jpg

車による北海道一周テント生活の旅も
終わりに近づき、わたしはそろそろ、
定住することを考えはじめていた。

どこをどう通ってきたのか、よくは分からないが、
その日の午後、わたしは長野県の飯山市に到着した。

その日、どこに寝るのか、まだ決まらないうちに
陽が暮れはじめたので、わたしはなにかの施設の
脇にある空き地に車を停めて、夕食を食べていた。

すると、一人のおばあさんが近寄ってきた。

「ニーちゃん、どこから来ただぁ?」
「北海道を一周してきたんだぁ。
これから南のほうへ行くところだぁ」
「そうかぁ。そりゃぁ、大変だわなぁ」

わたしはこの、の~んびりしたおばあ
さんと、ひとしきりいろんな話をした。

思えばわたしは、この長い旅の途中で、
こんなになごやかに、人と会話をした
ことは、なかった。

道端にテントを張って、インスタント・ラーメンを
すすっている。どこのだれかも分からない。まるで
浮浪者のような若者に対して、なんの警戒心もない。

ただ、心をなごませるためだけの会話。
もちろん、そこには、なんの下心もない。

それどころか、このおばあさん。親切なことに、
「この先に野球場があって、その脇に水場がある
から、洗い物とか、自由に使うといいだよ」と、
願ってもないような情報まで、教えてくれた。

長野県にはこのように、いい人が多いので、
わたしはすっかり自宅に戻ったかのような、
ホンワカとした気分になってしまった。

075.jpg

テント生活者にとって、水は命である。

水さえあれば、ご飯が炊ける、おかずだって
作れる。洗い物もできる。その上、自前の
ホースを使って、体を洗ったり、洗車したり
することだってできるのだ。

「よし、シャワーでも浴びよう!」

わたしはホースと風呂道具一式を手に取ると、
野球場へと向かう石段を降りていった。

「ライトも持ってくるんだったな」
と、わたしは、すぐに後悔した。

あたりはすでに真っ暗で、どこになにが
あるのか、よく見えない。どうやら3塁側の
ブルペンの脇にあるのが、おばあさんの
言うところの、水道栓であるらしい。

おそらく、暑い日にはここから球場全体に
長いホースで、水をまいたりするのだろう。

栓をひねると、あっけないほど、水が出た。

( 実は、わたしは慣れたもので、このとき、
鍵をかけられた水道栓から水を出すための、
秘密の工具一式も一応、持っていたのだが・・・ )

野球場だろうがどこだろうが、たとえどんなに
暗かろうが、水さえ出ればこちらのものである。

早速わたしは服を脱いで、体を洗い
はじめた。しかし、なにしろ真っ暗な
闇の中なので、すべてが手探りである。

え~と、石鹸はどこだ? 
シャンプーはどれだ?
ん? これはリンスかな?

そんなことに集中していたせいもあってか、
わたしは、1塁側にザワザワと集まりはじめた
人の気配には、まったく気がついていなかった。

そして、次の瞬間!

「ガン!」 という金属音と共に、
野球場全体に、明かりが灯った。

「ゲッ!」 と、わたしが驚いたのは、
急に電気がついた、そのことではなく、
1塁側にいた、その人の多さであった。

さぁ、今から草野球を楽しもうという
アマチュアの野球チームが2チーム分。
それに応援に駆けつけたご父兄の皆様、
その子供たちまでをも、合計すると、
3~40人はいたのではないかと思う。

全員が・・・、その全員の目が、
一斉に、わたしに注がれた。

わたしはというと、髪を洗っている
途中の姿勢のまま、固まっている。

草野球チームご一行様も、おそらく、
わたしがここでなにをしているのか、
全員が瞬時に理解したのであろう。

全員が、わたしから目をそらした
格好のままで、固まってしまった。

もちろん、わたしはフル○ンである。

それから、5秒間・・・。

だれ一人として、動かなかった。

076.jpg

いっそのこと、なれるものならば、銅像にでも
なって、「髪を洗う」とかいうタイトルでも
つけられて、このままずっと、ここに固まって
いたい、とすらわたしは願った。

次にわたしは突如、狂人のフリをして、
「うらあァァァーーー!!!」 と、
絶叫一番。チ○ポをグルグルふり回し
ながら、野球チームの中に、突入して
行きたい、という衝動に駆られた。

「市営球場に、夏の魔物!」
「恐怖のシャンプー男!」
「変質者、現る!」


わたしの脳内にはすでに、明日の地方紙の
見出し語が、走馬灯のように駆け巡っていた。

すると、そのとき。
「まぁ、とりあえず、こっちは、ゆっくり
キャッチ・ボールでも、やってるから・・・」

野球チームの監督らしい人が、
選手たちに向かって、大きな
声で、そう言うのが聞こえた。

軽いウォーミング・アップでもやって
いるうちに、いなくなってくれないか?
と、彼は言外にそう言ったワケである。

長野県の人はつくづく親切だなぁ、と、
またしても感心したのは、この時である。

監督が、わたしに向かって、ではなく、
「選手たちに向かって」言った。その
言葉は、事を荒だてることなく、かつ、
わたしを辱めることがないように、
という、深い思いやりにあふれていた。

わたしは、そそくさと体を洗い
終えると、着替えもそこそこに、
足早に、その場を去って行った。

秋の訪れも近い、ある夏の夜の出来事だった。


  1. 2006/08/05(土) 09:47:57|
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ここの管理人 : 木塚ベラ (きずか ベラ) 氏。


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久留米大学附設高校中退。大学検定試験を経て、早稲田大学第一文学部卒。中学校講師を依願退職後、フリーに。現在、エッセイスト・株式投資家・小説家・心理学者。

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