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★夢幻泡影★ (むげんほうよう)

~尽きてゆく魂の詩~

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国道158号線 ~後編~

こよなく愛する国道。158号線の脇で、
降りしきる雨の中、わたしはただ茫然と
立ちすくんでいた。

どうしよう。どうしたらいいのだろう・・・

現場まで行ってみようとも思ったが、なにしろ
わたしは高所恐怖症で、絶壁の下を覗きこむ
だけで足がすくんで、身動きがとれなかった。

しかしわたしは、この事故の唯一の目撃者
なのである。なんとかしなければならない。

よ、よし。とりあえず降りて、行ってみよう。

ようやく意を決して、わたしは
切り立ったガケを降り始めた。

と、そのとき。下からガサゴソと音がして、
生い茂る木々を必死になってかき分けながら、
這い上がってくる、ハゲオヤジの姿が見えた。

「あっ! だ、大丈夫ですか?」

うっそうとした森の闇を切り裂いて、オヤジのハゲ
頭が、この時ほど光り輝いて見えたことはなかった。

「ケガは? ケガはありませんか?
 き、救急車を呼びましょうか?」

オヤジはウゥ、とも、オゥ、とも
つかない音を発した。

「まだ、女房と娘がいるんだが・・・」

見ると確かに、ハゲオヤジの後ろから、
女性が2人、ゼィゼィ言いながら、しかし
実に器用に、絶壁を登って来るではないか。

もしこの3人が重度のケガを負っていれば、
この切り立ったガケを、こんなにも確かな
足取りで登ってこれられるハズがない。

わたしはホッと胸をなでおろしながら、
「ケがなくて、ホントウに良かった
ですね」と、オヤジに向かって言った。

50代の夫婦と20代の娘であろうか。

親子3人を引っ張りあげて見ると、多少の
かすり傷や、打撲らしきものはあるものの、
親子とも、大きなケガはない。

九頭竜湖と158号との間に横たわる、
深々とした谷底に向かって全速力で
ダイブしたことを考えれば、これは
奇跡以外のナニモノでもなかった。

「こんなところで立ち話もなんですから・・・」

まだ雨が降っていたので、わたしは
3人を、屋根つきのバス停へと誘った。

「むさくるしいところですが、まぁ、
コーヒーでも、一杯いかがですか?」

突拍子もない事故に出くわしたショックの
せいもあってか、3人ともなんだかボーッと
したまま、わたしの言うことに諾々と従った。

052.jpg

自慢のキリマンジャロの香ばしい香りに、少し
落ち着きを取り戻したのか、問わず語りに聞く
ところによると、事故当時、車は20代の娘
さんが運転していたらしい。

飛騨高山に住むお婆ちゃんの家から、自宅に帰る
途中だったという。タチの悪いスポーツ・カーが
ぴったりと後ろにくっ付いて、激しくパッシング
してきた。そこで道を譲ろうと思って、バス停の
空き地に車を寄せようとした。ところが・・・

「ブレーキが急に、効かなかくなっちゃったんです」

長い下り坂でブレーキを使いすぎると、
突然ブレーキが効かなくなってしまう。
これを「フェード現象」というのだが、
なるほど、あり得る話である。

しかし「後ろの車からアオられた」という供述に
関しては、どうだろうか? わたしはこの娘さん
の言い分を、100%鵜呑みにする気には
なれなかった。

この事故の直前に、この娘さんの後ろを走っていた
車の運転手に、もし話を聞くことが出来たとしたら、
「いや、アオっていたつもりは全然ありませんよ。
ただ、法定速度40キロのところ、目の前の車が
30キロでチンタラ走っていたら、誰だって接近
してしまうものでしょう?」とでも言うに違いない。

人間とは、同じものを見て、同じことを経験しても、
それを、自分の頭の中で、自分の都合のいいように
書き換えて、記憶してしまう生き物なのである。

「いやぁ、こんな大事故を起こして、大きなケガが
無かったのは、不幸中の幸い。というか奇跡ですよ」

わたしは、車一台をオシャカにして落ちこんでいる
親子をなんとか慰めようと、努めて明るく振舞った。

「娘さん。今は事故ったばかりだから、そういう風
には思えないかもしれませんが、今日のことは将来、
きっといい思い出になりますよ。『わたし九頭竜湖
に車でピョ~ンって、ジャンプしたのよ!』 ってね」

娘さんのほうは、ようやくクスッと笑った。けれど、
ハゲオヤジとその奥さんのほうは、先ほどから
どうも様子がおかしい。

なにか朦朧としている。というか、なんだか、
心ここにあらず、といった様子である。やはり、
落下したときに頭を打っているのかもしれない。

「後で後遺症が残ったりすることになるといけない
ので、一応、救急車を呼んで、病院で診てもらう
ことにしましょうか? 事故証明やなんかも取って
おかないと、保険が効かないかもしれませんし・・・」

と言うと、わたしは消防と警察に連絡をした。

イヤも応もない。というより、この夫婦は、もう、
なにも考えることが出来なくなってしまっている
様子であった。

遠くに救急車のサイレンの音を聞きながら、
わたしはそろそろ、その場を離れることにした。

わたしが車に乗りこもうとした時、娘さんが
近づいてきて、恥じらいながら、こう言った。

「あの、せめてお名前だけでも・・・」

「なに、名乗るほどの者ではありません。
 風の吹くまま流れゆく、通りすがりの旅人ですよ」

そう答えると、わたしは颯爽と去って行った。

カッコよくネ? オレってカッコよくネ?

  1. 2006/07/18(火) 10:11:11|
  2. 未分類
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ここの管理人 : 木塚ベラ (きずか ベラ) 氏。


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久留米大学附設高校中退。大学検定試験を経て、早稲田大学第一文学部卒。中学校講師を依願退職後、フリーに。現在、エッセイスト・株式投資家・小説家・心理学者。

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